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MUSIC LAND -私の庭の花たち-

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「地獄への道連れ」2(最終回)

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会社の同僚である彼女が行方不明になり、

いろんな噂が飛び交った。

家出や事故ではないかとか、

誘拐や殺人などの事件に巻き込まれたのではないかと。

それでも、警察は調べに来ない。

家族から捜索願いが出たらしいが、

成人女性が失踪しても、

なかなか警察は調べてくれないらしい。

そんなものかと落胆する一方、

調べられないことにホッとする自分。

私の身代わりに彼女が地獄に落ち、

それを見殺しにしている。

何も言わないことで、私も心の地獄に居る。

うちに帰り、このまま黙っていようと思ったが、

やはり耐えられない。

彼女は子供を残して神隠しのように消えた。

放っておけば、噂も消えるかもしれない。

でも、同じ子供を持つものして他人事とは思えない。

怖くなって誰かに話そうにも、

その人を巻き込んでしまう。

主人に言って、二人とも地獄に落ちれば、

3人の子供はどうなってしまうのか。

迷った挙句、ネットで知り合った男性に

メールで相談することにした。

彼は天涯孤独の身の上で、私に好意を持ってくれている。

メール交換を続け、会いたいとも言われたが、

断り続けてる人だ。

私も好きだが、会ったらどうなってしまうのか、

予想がつくだけに会えない。

でも、彼と一緒なら地獄に落ちても構わないとさえ思っていた。

それなら会ってもいいはずなのだが、

やはり子供は捨てきれなかった。

メールには詳しいことは書けなかったが、

事情をほのめかすと、

彼も地獄に落ちても構わないと言ってくれたので、

勇気を出して打ち明けた。

しかし、不思議なことに地獄には落ちなかった。

彼も私も、メールで「血塗られた部屋」の秘密を話しても大丈夫。

口に出して言わなければ平気ということか。

彼はこのことを言葉に出さないから会ってくれと言う。

会ってしまえば、そういう関係になってしまうだろうし、

何を口走るか分からない。

でも、地獄に落ちる覚悟までして、

話を聞いてくれた彼を無下にはできず、会うことにした。

彼と会っても、その話はせず、

見つめ合ってるうちに、関係を結んでしまった。

案の定「君となら地獄に落ちても構わない」と彼は叫び、

「私も」と答えてしまった。

そのとたん、全裸で抱き合ったまま、地獄に落ちたのだ。

気がつくと、大勢の人が私たちを見つめている。

あわてて彼が私を身をもって隠してくれたが、

囲まれているので、隠しようもない。

そこへ声が聞こえた。

「どちらか一方は、二人で納得すれば

現世に戻してやろう」と言う。

彼は「戻らない」と言ってくれた。

私は一瞬迷ったが、「私も戻らない」と答えた。

ここで裏切って戻っても、心は地獄のままだ。

彼は「子供のためにも君が戻るべきだ」と言ってくれた。

自分は天涯孤独の身だからと。

でも、「実は死んだと言っていた母は、

離婚してどこかで生きてるらしい。

一目会っておけば良かったかな。」と言うのだ。

「母に会ったら、このことを告げて戻ってくるから、

先に戻ってもいいか」と言う。

私に「駄目」なんて言える訳がない。

私が彼を道連れにしてしまったのだから。

でも彼を待つのは、小説「走れメロス」に出てくる

メロスを待つ「友達」のような複雑な気分。

彼が戻ってくると信じてはいるけど、

母に会ったら現世に未練が残るだろう。

でも、信じて送り出すしかない。

たとえ戻ってこなくたって、もともと私だけ

地獄に落ちるところだったんだから。

「無事にお母さんと会えることを祈ってるわ。」

としか言えなかった。

彼を送り出し、ふと回りを見回すと

同僚の彼女が居るではないか。

彼女は私に近寄ってくると、

いきなり平手打ちをあびせた。

「あなたのせいで私はこんなところに来たのよ。

あなたが居ないので心配してパソコンを覗いたからなんだから。

でも、あなたもここに居るということは、

秘密を言わないと誓えなかったということ?」と聞く。

私は彼女に詫びて、ここに来るまでの顛末を話した。

彼女は最初うなずきながら聞いていたが、

段々感情が高まってきたのか

「もう聞きたくない。」と耳を塞いだ。

私の話から子供のことを思い出したらしい。

それでも懺悔のように彼のことまで全部話した。

「それなら私にはあなたの代わりに

現世に戻る権利があるはずだわ。

もし彼が戻ってきたら、私が代わりに戻してもらう。

まあ、あなたが私を見殺しにしたように、

彼もあなたを見殺しにして、戻って来ないと思うけど。」

と冷たく笑って言い放った。

それからしばらく彼女とも話さないまま、彼を待ち続けた。

やはり彼は戻ってこないのだろうか。

まだ若いのだし、人生これからだもの。

わざわざ自分から地獄に落ちることはないのだ。

そう自分に言い聞かせていたころ、

彼が戻ってきてくれたのだ。

やっと探し当てて会えた母を残して。

彼に彼女のことを話すと、

「そんな他人を戻すために、

僕は母を捨てて戻ってきたんじゃない。

君を戻すために、僕は母が地獄に落ちるかもしれない危険を冒してまで

母に秘密を打ち明けて戻ってきたんだぞ。」

彼は顔を真っ赤にして怒った。

「本当にごめんなさい。

お母さまにも申し訳ないことをしたと思ってる。

でも、彼女も子供を残してきたのよ。

このままでは許されないと思うの。

私もあなたと一緒に地獄に残るから、

彼女を現世に戻してあげて。」

必死に頼むと彼の顔色も心も落ち着いてきた。

「そうだな。君が戻ってしまったら、

僕は地獄で一人ぼっちだ。」

「そうよ。二人なら地獄に落ちても構わないと思ったんでしょ。」

彼も納得してくれたので、

彼女に戻ってもらうことになった。

彼女も子供に会えると喜んで戻っていった。

私は彼を残して自分だけ戻るわけにはいかない。

彼女を道連れにはしたくないし、

自分の意思で一緒に来てくれた彼こそが道連れだ。

「地獄の沙汰も金次第」というけど、

「地獄の沙汰も道連れ次第」

彼が道連れなら、地獄も天国に変わるのだ。

これからはずっと一緒なのだから。(完)


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